トランスを齎す薬物の使用の歴史は古い。 メスカリンやカンナビス類(すなわちマリファナやハシッシュ)は宗教的儀式に古くから用いられ ていた。 未開社会では何千年もの間、主な幻覚発動薬の採れる植物は、占い・呪い・超自然力との 交わり・内省・社会統一をすすめる為などに使用されてきた。 また、もっと現実的なこと−飢えを和らげ、不快や退屈などを紛らわすためにも使われた。 西半球ではアメリカ大陸発見以前に幻覚発動植物を使用したのは、現在の米国南西部からアマゾン 川北西部の地域に限られていた。 アズテク族の呪術師は幻覚植物(テオ・ナナカティル(teonanacatyl=神の肉)と呼ばれるメスカリン を含むサボテンやシロシビンを含む菌類)を摂取しインスピレーションを得ていた。 テオ・ナナカティルは、モンテズマ(Montezuma)の載冠式の際に儀式の雰囲気を更に高めるために配 られたと云われている。 ペヨーテ(メスカリンを含むサボテン)の聖餐への使用は今日では殆ど見られなくなってしまったが、 それでも幾つかの部族ではいまだに呪術師がシロシベやストロファリア(シロシビンを含む菌類)を 儀式に使用している。 中央メキシコのインディアンのシャーマンや呪術師はペヨーテ・サボテンの頭部を干して食べた。 部族のお祭にはその図案を飾りとしている。 十九世紀にはメスカレロ(ここからメスカリンの名がついた)族がペヨーテ・サボテンを手に入れ、 ペヨーテ儀式を行った。メスカレロ族のペヨーテ儀式はコマンチ族やキオワ族に広がり、 儀式のみならず教義や倫理を伴う宗教にかえられていった。 また、主成分は明かとされていないがゾロアスター教(拝火教)が讃え、 儀式に用いるハオマ(haoma)は、中枢神経興奮作用・精力増強・疲労回復・幻覚症状を齎すものである。 ハオマは、インド・アーリアンの最古の聖典とされる「ヴェーダ」に登場するソーマ(soma)と同じ ものを指すとして、その原料はベニテングタケの一種であるとする説や、インド大麻であるとする説、 ザクロであるとする説、更に麻黄(ephedra)から分離されるエフェドリンであるとする説があるが、 実際のところ確かなことは解っていない。