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幻覚発動薬 Hallucinogens


【薬物性トランス状態】

 精神分析学の領域に於いて、人間の心理はその性質により二分される。
 「意識(conscious mind)」と「無意識(unconscious mind)」である。 
 「意識」とは、今していることが自分でわかっている状態。
 唯物論哲学では、意識の生理的基礎は脳髄の活動で、個人の意識は環境の主観的反映として時間的・
空間的に限定されている、とされている。
 つまりは、精神の常態に於ける表面的な認識と定義できるだろう。 
 これに対し「無意識」とは、夢・催眠・精神分析によることなしに捉えられない状態で、
精神の常態に影響を与えている心の深層である。 
 精神分析学に於いては、「無意識」は心理の根底を成すもので、脳髄に於いてそれのもつ領域は、
「意識」の領域の何倍もの比率をもって占めるとされている。 
 「無意識」は認識されない行動によってのみ表面化する。
 これを提唱したフロイトによれば、人間が齎す "間違い" は「無意識」からあらわれる現象であると
され、複雑な自我形成組織から滲み出る結果であると云う。 

 今日では、精神病や精神症を分析するために夢判断や自動記述、自由連想法、催眠分析などが使われ、
その治療には催眠治療や暗示法などが用いられている。
 これらはいずれも認識されない思考や言動を経て「無意識」に触れるための方法であり、
現にこれらによる治療の有効性は認められている。
 しかし乍ら「無意識」の領域はもとより脳髄の機能的構造については、未だ完全に知られていない。
 それ故に人々の「無意識」の領域への興味は尽きない。
 開拓されていない未知の能力がそこに在ると想像したり、「悟り」の道理をそれに求めるなど、
様々な推測や期待がその領域へ託されている。
 その「無意識」への架け橋である心理状態のひとつに「トランス(trance)」という状態がある。
 もっとも、心理学的には「催眠状態中等に見られる常態とは異なる精神状態」という様に定義されて
いる。 ASC(Altered States of Consciousness 変性意識状態)に包含される意識状態である。
 この状態に於ける人間は、認識されない言動、思考すなわち「無意識」からの自動的な活動、
思考が現れる。
 人を作為的にこの状態、或いはこれに似た状態に置く為には幾つかの方法が挙げられる。
 一つ目の方法は、臨床心理学によく用いられる「催眠」である。
 これは第三者が介入し、被検者に対し或る方法(凝視法/言語暗示法/単調音傾聴法等があるがここ
ではその詳細については省略)を用いて催眠状態(トランス状態)に誘う方法である。
 この状態に於いて催眠療法(催眠を利用して精神療法を行う)や催眠分析(催眠を利用して精神分析
を行う)が行われるのである。
 この場合、被検者は意識的な領域中で催眠中の自分を確認することができない。
 二つ目の方法は、第三者を介入せずに自身をトランス状態に持って行く方法である。
 一つ目の「催眠」に対しこれはいわば自分自身に催眠術をかける様なもので、その方法に挙げられる
フロイトが提唱した潜在意識説に基づいた自動記述法(自動書記法)も或意味でこの分類を受けると云
える。 超現実主義作家(文学及び絵画共に於いて)たちはこの方法を応用して用い、
日常の論理を排した作品を作ろうと試行した。
 彼らは自動記述の他にも様々な方法で自らをトランス状態に於くことを試みたが、
それらの方法には或鉄則があった。
 それは、「薬物を用いないこと」である。
 何故なら彼らは薬物が介入すると脳から滲み出る純粋なる”肉汁”が汚れると考えたからである。
 三つ目の方法は、薬物を用いる方法である。
 トランス状態を誘引する薬物には様々な種類があり、その効果も生成方法、製造方法或いは栽培方法
によって実に多様である上、投与の方法によっても異なる。
 薬物を用いた場合、面白いことに自分の「無意識の領域」から発される言葉や活動を、
意識できる自分が冷静に傍観し得ることがある。
 もっとも、その様な性質を持つ薬物は種によって限定される。
 例を挙げれば、大麻などはその効果が現れている間、本人はそれによって齎された幻覚や酩酊状態を
冷静に傍観しており、効果が切れた後も尚それを記憶している。
 これに対し睡眠薬やある種の菌類を投与した場合、酩酊・狂騒状態にある自分、或いはその状態にあっ
た自分を認識することができない。 すなわち、トンでいる自分を憶えていない。
 というように薬物による効果、或いは副作用は、その種類によって異なる。
 これらの方法によって齎されるトランスはそれぞれその性質が相違するが、共通点をはらんでいる。 
 いずれのトランス状態に於ける人に見られる思考・行動・発言は、本人が意識できない領域から直接
的に現れる物である要素を包含しているという点である。
 今回は三つ目の方法「薬物性トランス」に焦点を当ててみようと思うが、
特にその中でも「幻覚発動薬(hallucinogens)」の分類を受ける薬物を中心に述べようと思う。

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